Netflixの快進撃はどこまで続く!?


2018年、Netflixのオリジナル作品「ローマ」がベネチア映画祭で金獅子賞を受賞して以来、このDVD宅配から創業した動画配信会社は映画産業に大きな影響を及ぼしています。
さらに2019年にはNetflixから15本もの作品がアカデミー賞にノミネートされ、その快進撃は止まることを知りません。
全世界での有料会員は1億6700万人で、日本でも300万人を超えています。これからもどんどん増え続けていくことが見込まれます。
一体Netflix成功の背後には何があるのか、最近話題の作品「アイリッシュマン」からその一部が見えるかもしれません。

Netflixがなければ、日の目を見なかった傑作

マーティン・スコセッシ監督、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペイジ主演の作品「アイリッシュマン」はその豪華なキャスティングで話題になりましたが、実は予算の高騰が原因で何年も進捗困難な状況に陥っていました。スポンサーの1社が手を引き、パラマウント社が映画の制作を中断したのをNetflixが1億500万ドルで引き受け、映画の完成を可能にしたのです。

製作費用の中で特に比重が大きかったのは、複数の登場人物をデジタル加工によって年をとらせたり若返らせたりする作業でした。撮影当時70歳を超える高齢だった3人の主演は、青年から晩年まで代役なしで演じ切っています。もっと若い俳優を使うか、代役を立てればコストを削減できたはずですが、ギャング映画の集大成とも言えるこの作品をアル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペイジ、この3人の生きるレジェンドに演じてもらうことにこそ意義があったのかもしれません。

クリエイターに絶対なる自由を

スコセッシのインタビューから、Netflixは大手製作会社と違い、口うるさく干渉してくることなく、彼に自由な製作環境を提供したことが窺えます。
Netflixはクリエーターたちに対して、あまり干渉しないというスタンスであることは、もう一つの意欲作、「ラブ・デス・ロボット」の監督、ティム・ミラーのインタビューからも知ることができます。

ミラーはNetflixがリスクを取ってくれたと語り、その表現の過激さに文句を言ってくる人は一人もいなかった、Netflixは最高なパートナーだったと絶賛しました。
その自由な環境のおかげで、実験的精神に溢れた18本の短編アニメ集「ラブ・デス・ロボット」は、世界中から高い評価を得るのと同時に、アニメーションの新たな可能性を見せてくれました。

不運な先駆者「オクジャ」


しかしNetflixのオリジナル作品が辿った道は、決して順風満帆だったとは言えません。2017年にポンジュノ監督がメガホンを取った「オクジャ」は韓国最大手の映画館チェーンCJ CGVに続き、2番手のロッテ・シネマ、3番手のメガボックスが、同作の上映をボイコットされました。その原因はNetflixが劇場公開と同日にオンライン配信を開始するという方針を発表したからです。
当時、動画配信会社のオリジナル作品は映画業界から強い排斥を受けていました。それにもかかわらず、これまでに「殺人の追憶」、「グエムルー漢江の怪物ー」、「母なる証明」など数々の名作を世に送り出してきた韓国を代表する監督、ポンジュノ(第92回アカデミー賞で「寄生虫」が作品賞を受賞)がハリウッドの製作会社ではなく、Netflixと手を組んだ理由は何だったのでしょうか。

「オクジャ」は社会に対する皮肉に満ちていて批評性が高い作品です。そのため、ハリウッドのメジャーなスタジオからは、食肉処理工場の描写などを差し控えるよう要求されましたが、Netflix側は「監督が編集したものに手をつけず公開する」と宣言しました。ポンジュノ監督は「これはよくあることではないが、Netflixは、撮影にも編集にも口を挟むことなく、最初から最後までわたしの考えを尊重してくれた。」とコメントしています。
しかし、監督の強い信念を余すことなく反映した「オクジャ」は、その内容よりも配信方法の方が人々の議論を呼ぶことになりました。
カンヌ映画祭でも、「劇場で公開されないストリーミング作品をノミネートして良いのか?」という論争が巻き起こり、作品そのものは冷遇されてしまいました。

映画のこれから

「オクジャ」は正当に評価されませんでしたが、映画人に新しい扉を開いてくれたことは間違いないです。Netflixが提供してくれる充分な資金と自由な製作環境、クリエイターなら誰もが望んでいることです。これからはますます多くの名監督や俳優がNetflixのような動画配信会社と手を組むことでしょう。

映画やテレビドラマ業界は世界的な変革期に入りました。そこに現れるのはさらなる進化なのか、それとも衰退なのか。一映画ファンである筆者は、計り知れない期待と不安を胸に潜めて、日々その変化を追っていきたいと思います。

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